「ヒバリー!」


 騒がしい足音を立てて僕の名を呼びながらノックもせずに僕の部屋、応接室に入ってきた彼にとりあえず手近にあったペン立てを投げつけてやった。
 ばらばらと入っていた鉛筆やらペンやらを撒き散らしながら真っ直ぐ彼に向かって飛んで行き、ひょいと避けた彼の後ろのドアにがつりとぶつかって床に転がった。

 「ちょっと、」
 びっくりしたのなー、と暢気な笑顔を浮かべたまま言った彼を睨みつけて言う。
 「何で避けるの」
 「まーまー、」
 へらへらと笑いながら彼は近づいてきて机の上に中身がいっぱいに詰まったビニール袋を置いた。
 「何これ、」
 「んー、これお菓子なのな」
 お菓子?がさがさと音を立てて彼が取り出しているのは確かに駄菓子だった。
 「咬み殺されたいの?学校は菓子類は持ち込みが禁じられてるよ」
 「まーまー、気にすんなって。ほら、ヒバリ、これ知ってる?」
 気にするなと言っても決まりは決まりなのだけれどこの男にそんなことを説いても無駄だということは分かっている。そのうち殴り飛ばそう。
 そう決めて、彼の差し出したものを受け取る。
 「・・・ラムネだね、」
 「ヒバリ、ラムネ好き?」
 「嫌いじゃない」
 言って、びりと袋を破って開け、中身を数個手に出して口へ放り込む。ほんのり甘くてしゅわっと溶け出すそれを溶けるより早くがりがりと噛み砕く。
 他愛無く小気味よく砕けるその感触はとても噛み心地がよくて(悪くない、)そう思った。

 次々口に放り込んで、噛み砕いて、嚥下する、を、繰り返して小さな袋に入っていたラムネはすぐに無くなった。
 次を要求して彼の方においてあるビニール袋を引き寄せて中を漁る。
 一番に目に付いた鮮やかな赤いお菓子。
 「ねえ、」
 彼のほうにそれを差し出して問う。
 「これ、何?」
 短めの割り箸2本、その先にくっついている赤く透き通った丸い何か。

 きらきらしてとっても綺麗。窓からの太陽光に透かして見る。綺麗。

 「それ?ヒバリそれ見たことねーの?」
 「うん、ないね」
 「練り飴、っつーのな」
 「練り飴、」
 彼が言ったこのお菓子の名称を鸚鵡返しに繰り返す。飴、じゃあ舐めればいいのか。
 赤い部分を覆っているビニールをぺりぺりと剥がし、口に含もうとした。ら。

 「あー!違うって、ヒバリ!」

 止められた。なに、と目に力を入れて彼を見遣る。
 「それは、練ってから食べるのな、こうやって、」
 と、彼は同じような黄色い練り飴を袋から取り出して、割り箸の部分を持ち、ぐにぐにと確かに練っているようだった。
 見よう見まねで、やってみる。

 ばきり、

 「あ、」
 割り箸があっさりと折れた。
 「あーあー、ヒバリ、力任せじゃ駄目なのな、そーっと、動かすんだぜ」
 短くなった割り箸を再度掴んで、今度は力を加減して動かしてみる。
 そうそう、と笑顔で言う彼。なんとなく良い気分で、動かし続けて。

 「白っぽくなったら食べられるのな、」
 こんな風に、と言って彼が練っていた、黄色の、元は黄色だった今は大分白いものを見て。
 それから自分の練っていた赤い飴を見れば、彼ほどではないがもう大分白っぽくなっていて。
 「これくらい?」
 聞けば彼はうなずいて(彼の口にはすでに飴が入っている、)もごもごと良いと言った。
 軟らかくなった飴を口に運ぶ。



 「甘い、」

 

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