僕らが小さかった頃。
 夕立の中泥まみれになりながら遊んで。
 君のお父さんに見つかって、君の家の庭でホースの水を思い切り被らされて。
 その後お風呂に放り込まれたよね。
 君のお父さんに2人してがしがし洗われてさ。
 興奮がおさまらなくて騒ぐ僕らは君のお父さんに怒られながら100まで数えさせられた。

 「ってことがあったよね」
 「よく覚えてるな」
 「一回や二回の出来事じゃないからね」
 「そんなにあったか?」
 「夏はほとんど毎日だったよ」
 毎日毎日よくもまあ飽きずに泥まみれになったものだ。
 そんなことを了平に話しながら、僕は畳と仲良くなる。
 夏休み。本当なら浮かれる草食動物の群れを咬み殺さなきゃならないのだけれど。
 暑くて暑くて堪えられない。
 だって考えてもみてよ。周りに居るのは黒い学ランをきっちり着込んだ暑苦しい男たちなんだよ、しかも頭も暑苦しい。全部引っこ抜いてやりたいよ。
 そんな訳で分かりやすく夏バテしている。(動くどころか食べ物を摂取する気力すらない)
 自分の家で畳に寝転がってぐたりとしていたら、了平がやって来た。
 極限とかなんとか騒いで五月蠅いので無視したらもっと五月蠅くなったから、僕が喋ることにして今に至る。
 了平のことは別に嫌いじゃないけど、今は勘弁してほしい。
 だって暑苦しい!

 気が付いたら了平が隣に寝転がっていて。
 「暑いんだけど、」
 言って、足でぐい、と了平を押しのける。
 が。
 了平は懲りずにごろりと、転がって近づいてきて、僕の頭に手を伸ばした。
 「ヒバリ、お前昨日風呂に入っていないのか?」
 風呂なんてしばらく入っていないよだって暑いんだから。暑いのに暑い場所に行きたいと思う?
 そう言ってやったら、いきなり。
 ひょい、と了平に荷物みたいに抱えられて。
 「ちょっ、と、何するの」
 「お前、頭が油でべたべただぞ、」
 「だから何、」
 「オレが風呂に入れてやる」
 「やだよ、暑いから」
 しかも入れてやるってなんだ、入れてやるって。まるで僕が猫か何かみたいな言いようだ。
 了平は、勝手知ったる他人の家、迷うことなく僕を浴室まで運んで、ひょいひょいと僕の服を脱がして、ぽい、と浴室に放り込んだ。
 そのままシャワーを頭から掛けられて、(熱い、)がしがしと頭から洗われた。



 「何で君まで風呂に入ってるの」
 了平は僕を洗い終わったあと、自分も服を脱いで一緒に風呂に入ってきて。

 まるで子どもの頃のよう。

 懐かしいなあなんて思いながら、僕らは風呂に浸かっていた。