歌、だ。
 歌が聞こえる。
 細く、高い女性の声。
 ゆらりとたゆたうようなメロディー。
 それは、どこか儚い彼女が、無音のこの空間に生み出した唯一のものだった。

 最近まで、自分の声以外は何の音もしなかった、僕の生み出した世界。
 そこに響く澄んだ歌声は、この上なく僕を癒し、安らげる。

 絶えることなく、宇宙を巡り廻る生を唱う歌。
 六道輪廻のような苦しみではなく。
 永遠に巡り廻る電子たちの歌。

 この世界の総てを構成するモノたち。
 綺麗で、とても惹かれる。

 この僕が、
 (世界に焦がれるなんて!)
 この世界は、僕が生きる価値があるのではないか、
 そんなことを思うなんて。

 ああ。
 この歌を聞く為に、
 もう少しだけ、生きてみましょうか。

 ねえ。クローム。



お題は群青三メートル手前さんよりお借りしました。