D/S/M−I/V−T/R 精/神疾/患の分/類と診/断の手引き
7 不/安障/害 強/迫性障/害 を取り扱っています。
症状は個人によりさまざまですが、この話では、不/潔恐/怖(強/迫思/考)、洗/浄強/迫(強/迫行/為)、それに伴う強/迫儀/式を取り扱っています。

精神の病気を抱えた雲雀は、違う!と思われる方はプラウザバックで。
それ以外の方はどうぞスクロールを。



































 トイレに入る。
 そして、出る。
 手が、汚れた。

 さあ、儀式の始まりだ。


 いつもの位置に手洗い用石鹸のボトルをセット、残量を確認、大丈夫。
 蛇口をひねる。流れ出す水に手を差し出して、一度、水洗い。

 それからは石鹸をつけて、洗う。洗い続ける。手のひら、手の甲、指の間、爪の間も忘れずに。
 手首、肘、きちんと泡立てて、泡が十分付いているかを確認しながら洗い続ける。

 洗って、洗って。汚れは落ちない。

 不安で。不安でしょうがなくて。

 洗っても洗っても、一回石鹸を濯ぐと、あれ?今洗ったか?思い出せない。

 だから。
 洗い続ける。
 ひたすら、ひたすら。

 気が付いたら、2時間が経っていて。

 そう、手を洗う前に確認した。2時半。今の時間は、4時半。

 2時間手を洗い続けていた・・・はず、だ。

 僕は2時間手を洗っていたはずなんだ。
 だから、大丈夫、汚れは落ちた。落ちたと思う・・・きっと落ちた。落ちたはずなんだ、大丈夫だ、大丈夫。

 不安だけど、不安だけど。こんな行為おかしいんだ。止めたい。
 だから、もう大丈夫だと思いたい・・・んだから。大丈夫だよ、大丈夫。


 ああ、気が付いた。
 この服、この服はトイレに入るときも着ていたものじゃないか。
 汚れてる。

 脱がなきゃ。

 脱いで、
 そうだ。身体も、汚れた。洗わなきゃ。洗わ、なきゃ。


 服を洗濯籠へ入れて、それから浴室へ。

 ボディーソープ、シャンプー、これも両方の残量を確認、入ってる。規定の場所へ。


 そして、いつもの入浴の儀式を始める。

 まず、手を洗う。12回。それから顔を洗う。12回。また手を洗う。(だって顔に触ったからね。)もちろん12回。それから身体を洗う。12回。手を洗う。12回。髪の毛を洗う。当然、12回。そして、手を洗う。
 この行程をきちんと正確に、(何回洗ったか分からなくなったらもちろん一からやり直しだ)行う。
 これで入浴の儀式は終わりじゃない。
 服を脱いで入ったんだから当然、着なければならない。タンスから、キレイ、に分類されている服を掴み、着る。
 さて、下肢に触れてしまった。当然、手洗いだ。12回。
 これでようやく入浴が終了。うん、綺麗になった。

 気が付けばもう8時を回っている。6時間近く強迫行為を行っていたわけだ。

 洗うのって神経を凄く使うのだ、当然、疲労は並じゃない。疲れた。
 もう寝よう。そう思って僕の聖域、布団にもぐり込む。

 ぐったりと、布団に身を預け、ずぶずぶと眠りの泥の中に沈んでいく感覚。
 が、ある一定のところでふっと、落下が止まり、そこから先へ、眠りへと、落ちることが出来ない。

 神経が張り詰めて、休まらない。だから、眠れない。

 なんて、理論を唱えたところでどうしようもない。

 ああ、眠れない。
 突発的に、急激に、不安の波が襲ってくる。
 不安だ、不安、不安、怖いよ、怖い、ああ、どうしよう。

 ふと、手の清潔さに疑問が湧く。

 洗ったっけ?洗ったはずだろ、洗ってなければこうして寝る事なんて出来やしないんだから。でももし洗ってなかったら?洗ったはずだ。1回洗う回数が少なかったかもしれない。ああ、思い出せない、そういえばそんな気もする。いやむしろ洗ったことすら思い出せない。
 不安なんて、そんなレベルじゃない、気が狂いそう。叫びだしそう、ああ、本当にこのままじゃ、僕、気が狂う!

 ベットを飛び出して手洗い場で手を洗う。
 手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首、肘、繰り返す。
 常日頃の異常なまでに過剰な手洗いのせいでただでさえ荒れている肌が、さらに荒れ、粉を吹き、皮膚が捲れて、そして血が滲む。
 ああ、まだ汚れは落ちない。
 洗い続けて、流す水は赤く染まった。

 気が付いたら、
 ああ、夜が明けてしまった。

 洗っていた時間の長さと、ずっと洗っていたはずだ、という、不確かな確認をして、
 もう、疲れた。
 布団に入る。
 身体はぐったりと、急速を求める。脳は冴える。神経は、やはり張り詰めたままで。

 母親が朝食の時間を知らせてきたけれど、食べる気力など残されているはずがない。
 むり、とだけ返して布団に埋まる。

 学校、行かなくちゃ。行かなくちゃいけないんだけど。外になんか出たくない。あんな汚れた空間。
 咬み殺すことだって不可能だ。だって人の身体に触れないんだから。
 武器を変える?例えば赤ん坊の銃、例えば獄寺隼人のダイナマイト、六道骸の幻術。手を触れずに草食動物を咬み殺せる。
 ああ、でも、やっぱり咬み殺すなら自分の手で。そう思う。信念みたいなものだ。殴るというのは。
 ということで、やはり咬み殺せない。
 そもそも外に出たくないしね。

 ああ、限界が訪れて、ゆっくり眠りに落ちる。
 きっとまた、たくさん夢を見るのだろう。
 夢の中でも、僕は強迫行為に悩まされるのだろう。

 そう、思って。
 意識は眠りに落ちた。






 この、尽きることない不安から、
 ――誰か、・・・たすけて、





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強/迫神/経症・・・
異常な不安、これをやらなければ死ぬんじゃないかという程の恐怖がある。
また、病識があり、異常を自分でも感じていて、止めたいのだけれど、どうしても止めることが出来ない。
ほぼ常に苦痛をもたらすものであり、そのように考えることが不合理であると理解はしているが、押さえつけようとすると不安はさらに増加する。
基本人格にはしばしば顕著な強迫的な特徴がある。
『標/準理/学療/法/学・作/業療/法/学 専/門基/礎分/野 精/神医/学 第2版』