ねえ、君、ちょっといいかな?

 僕さ、君のことが、ね、


 好き、なんだ、けど。


 そう、彼に告げた。
 いつもいつも、女の子に囲まれてて、きっと告白されるのなんて慣れてる彼に。


 ねえ、僕、君を愛してる。


 「なあ、先輩?」
 「それ、マジで言ってんすか?」
 「先輩、男でしょ?」
 「俺だって、男っすよ?」
 「ねえ先輩?そうでしょ?」
 「からかってんですか?」


 違うよ、違うんだ。

 ねえ本当に僕は、君のことが、
 大好きなんだよ。


 彼の腕を、すがりつくように掴んで、言った。

 彼は、その、僕の腕を、払い除けて。


 「やめろよ、ヒバリ」
 「気持ち悪い」


 そのまま立ち去って。

 僕は、

 彼をただ見送るしか出来なくて。

 身体の奥底から何か得体の知れないものが音を立てて湧き上がってきて。


 ――――――ッ


 ちゃきり、と袖口からトンファーを出し、壁に叩きつける。
 向こうのほうに居た群れがびくりとこちらを向いてくるけれど、

 ヒビの入った壁をそのままに踵を返して応接室へと走り去る。



 ドアを開けて中に入り、一番に目に付いた棚を薙ぎ倒す。

 がしゃんと、激しい音を立てて倒れた棚。ガラス部分が割れている。


 衝動に任せたまま、次の棚も同じく倒す。


 はあはあと、上がる息。こんなことで息が切れるなんて僕はどうにかしてる。
 執務机にトンファーを叩きつけて割る。

 ソファが目に付いて、トンファーに棘を生やして、革を切り裂き、ぼろぼろにする。
 そのまま、ソファにトンファーを突きたてたまま。
 素手で窓ガラスを割る。

 激しい音とともにあっさりとガラスは砕けて。
 腕に刺さった破片が見えて。
 何かに縋り付きたくなって割れた窓に縋り付く。

 ざくり、どこかが切れたような気がしたけれど、やっぱり胸の奥に澱んだ何かがあって、耐えられなくて。

 カーテンを破って。びり。音がして。がくりと膝から力が抜けて、その場にしゃがみこむ。
 カーテンに縋り付いて。


 どうしてだろう。
 涙が零れ落ちた。
 泣いた事なんて。
 もうずいぶん遠い昔から無いのに。
 骨が折れたって。血がたくさん流れたって、泣くなんてしなかったのに。

 どうして僕は彼に拒絶されたくらいで泣いているんだろう。


 カーテンの布を顔に押し当てる。
 布が涙を吸って濡れるのが分かった。

 どうすることも出来ないことがあるんだってことを、初めて知った。






お題はワンフレさんよりお借りしました。