注・死んでる・・・かもしれない感じになってるのでお気を付けを。
どろり、どろり。血液が流れてゆく感触。
流れを感じることに安堵と少しの落胆。
このまま流れが澱んで腐ってしまえば良いと、考えないわけじゃない。
楽な方へ、弱い草食動物のように、楽な方へと、意思が向かいはじめているのを自覚する。
ぎり、と、ずきり、と痛む心臓。
痛みを伝える神経などなくなれば良い。
耐え難い苦しみに両手で胸を強く押さえる。
ぐっ、と持てる全ての力で押さえ付ける掌は、しかし皮膚と肋骨に阻まれる。
いっそ邪魔なそれを突破って使い物にならなくなった心臓を鷲掴むことが出来ればどれだけ良いだろう。
酷い痛みを訴える心臓を直接押さえ付けることが出来たなら、まだ痛みはマシになるだろうに。
酸素が足りないせいで動きに痛みを覚える肺、痛みのせいで少しずつしか取り込めない酸素、少ない酸素に、より肺の動きが鈍くなる。悪循環。
白いシーツの上で胎児のように丸くなり、片手で胸部の寝間着を、もう片手でシーツを皺になるほど握り締め、呻きを殺して痛みに堪える。
べっとりとかいた汗が気持ち悪い。流れ落ちることのない、粘度の高い脂汗。
痛い。苦しい、駄目、苦しい。
意識が朦朧としてる。
このままだと死ぬかもしれない。人を呼ばなきゃ。
ナースコールをしようとボタンのある場所にそろそろと手を伸ばす。
あれ、無いな、ここに、枕元に置かれているはずなのだけれど。
く、と痛みを堪えて目をそちらへ向ける。
遠くに弾かれていた。
痛みに呻いている間に弾いてしまったのだろう。
コードを手繰り寄せれば良いのだけれど、後少し、コードに手が届かない。
かと言って身体ごとコードに近寄ることなど最早出来そうにない。
ああ、僕、本当に死んじゃうかもしれない。
苦しい、苦しい。
弱音なんて吐きたくない。その思いだけで痛みを身体の奥底に捩じ込んで、ぎり、と唇を噛んで蓋をする。
呻き声さえ、洩らしてなるものか。出したら負けだ。
蹲るというよりもはいつくばると言った方が正しいような酷い体制で、痛みが治まるよう、祈る。
っは、ぁ、と浅く呼吸して、少しずつ二酸化炭素を吐き出し、酸素を取り込む。
血液の流れに意識を集中させる。指の先まで、ゆっくりと流れを追いかける。
その流れに乗せられて酸素が運ばれていくのを思う。だけれどあまりにも少ないそれは指先まで到達することは出来ずに、濁って澱んで腐るのだ。
ああ。
(なんて嫌な想像だ)
誰か。誰か来て。助けて。
ねぇ誰か、この苦しみから僕を救い出してよ!
ああ、なんてことだろう。この僕が、他人に助けを求めるなんて!
いつから僕はこんなに弱くなってしまったのだろう。
昔の僕はもっともっと強かったはずだ。
弱音を吐くなんてこと、絶対にしなかったのに!
涙が出てくる。
痛い。痛いよ。
助けて。
段々と意識が薄らいでくる。
ああ。終わるんだ、
がらり、戸を開ける音と「恭弥!」僕の名を呼ぶあの人の声がした気がしたけれど。
それを確かめることは出来ずに。僕はそのまま意識を失った。