「お腹空いた・・・」
 指で摘んだマシュマロをふにふに弄りながら愚痴った。
 片手でふにふにしながらもう片手で次から次へとマシュマロを口に放り込む。
 「オレもう駄目かも、」
 ばたりと、テーブルに突っ伏し、首だけ傾けて寝室のドアを見遣る。
 「お腹空いたよ、恭チャンー・・・」
 寝室に居るあの子に呼びかける。
 「恭チャン、起きて来てー!」
 何の物音もしない扉に向かって叫んだ。
 「恭チャン、オレもう限界!!」
 立ち上がって寝室の扉に突進、開け放つ。
 「恭チャン恭チャン恭チャン、お願い起きてー!」
 ベッドに丸まっていた恭チャンが呻きながら布団を頭まで被りなおした。
 やっぱりこの子は起きていたらしい。
 この子はいつも目は覚めているくせになかなか起き上がってこようとしないのだ。
 「恭チャンってばー!」
 恭チャンの頭が埋まっていると思われるあたりの布団に向かって叫ぶ。
 「って、痛っ!?」
 布団に埋まっていると言うのに、恐ろしいまでの正確さで、こちらに向かって蹴りが飛んできた。(しかも結構痛い!)
 「痛いんだけどー、恭チャン」
 泣きついても、
 「五月蝿い、」
 一蹴だ。
 いつもならここら辺で引き下がるけど、今日はもう空腹の限界!
 「もう昼だから、起ーきーてー!」
 言いながら布団を剥ぎ取りにかかる。
 恭チャンも布団を掴んで抵抗するけど、寝起きで力が入っていないせいか、案外楽に剥ぎ取れた。
 布団を追いかけてオレの方に(いや、正確には布団にだけど、)さし伸ばされている彼の手首を掴んでぐいっと引っ張り、起こす。
 「ほら、起きてっ!」
 力の抜けた状態の、仮にも成人男性を引っ張り起こすのは結構大変。
 しかしここはプライドと気合でなんとか起こすことに成功。(出来なかったらどうしようかと思った!)
 なんだかオレ、恭チャンのお母さんになった気分。
 強引に起こされた恭チャンは不機嫌そうに呻いてオレの腰に抱きつくような体勢で、胸元に頭突きをしてきた。
 だから痛い!痛いんだってば、恭チャン!
 強制的にベッドから引きずり出すために、恭チャンの膝の下に手を入れて、「よいしょ、」持ち上げた。
 「・・・っ!?」
 浮遊感に驚いたのか、恭チャンが息を呑んでオレにしがみ付いてきた。
 その方か抱きやすくって楽だ。ひょいっと恭チャンをベッドから床に下ろした。
 「ご飯食べに行くから、着替えて、」
 しかし、恭チャンは、ぺたりと床に座り込んだ。目は開いているのでもう寝てしまうことは無いだろうし、しばらく待っていれば自分で動き出すことも分かっているけれど、今の俺にそんな余裕は無い!
 「はい、着替えてっ!」
 恭チャンが寝巻き代わりに来ていたTシャツの裾を掴んで脱がせてやる。
 着替えるのが面倒くさいのだろう、手を上げて協力してくる。
 ・・・自分で着替えろよ、そんなことを思わないでもないけれど、時間が惜しいのでとにかく手早くワイシャツを着せてやる。
 ボタンをちまちまと、半分くらい留め終わったあたりで、恭チャンは頭が回転しはじめたらしく、俺の手を振りほどいて自分で残りを留めた。
 急に人が変わったように残りの着替えをてきぱきと済ませる恭チャンを見て思う。
 寝ぼけてる恭チャンは性質が悪いけど可愛いよなあ、と。
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携帯サイト900打キリリク「白雲」でした。
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