アジト、と言うと響きが悪い気がするのはオレだけだろうか。
まあ、とにかく、自分のアジトの外の別宅。
そこに、電気が点いているのを発見しちゃったわけだけど、
これは、1、朝出るときに消し忘れた。・・・それはないだろう。かれこれ一週間は帰ってないわけだし。おととい近くを通りかかったときは消えていたし。
ってことはやっぱり2の泥棒さん説が有力じゃないだろうか。
仮にも一マフィアのボスの別宅に入り込むなんてずいぶん勇気のある泥棒さんだなあ、
なんてことを前は思っていたことを思い出す。
今では知らない間に電気が点いているなんてこと茶飯事になってしまった。
ドアを開け、部屋の中へと入る。
「ただいまー」
進んでいけば、確かにリビングルームに明かりが点っている。外から確認済みだ。
「あれ?」
彼からの返事が返ってこない。
まあ、あの子が返事を返さないことはたまにある。機嫌が悪いとき。それと眠いとき。
リビングルームを覗き込めば、
「いないなあ」
あの子が行方不明。
テーブルにはお茶でも飲んだのかカップが1つ、置き去りにされている。
傍にはオレ用のお茶菓子、マシュマロが置いてあるけれど、これには手を付けた痕跡がない。
あの子はどうもマシュマロが好きではないみたいだ。
それに投げ出すように置かれた黒いネクタイ。
ソファの背もたれ部分には同じく真っ黒なスーツのジャケットが掛けられていた。
もしかして。
ひょい、と覗き込んだベットルームに。
居た。
ベッドに埋まっているあの子、雲雀恭弥を発見。
彼はこの部屋が気に入ったのかなんだか知らないが頻繁に訪れて、お茶を(勝手に!)飲み、こうして(無断で!)ベッドに収まっているのだ。
最初はスパイだと思った。もう間違いなくこの子はスパイだなと。そう思った。
だって彼は仮にもボンゴレの人間で。しかも幹部、雲の守護者であるわけで。
オレのファミリー、ミルフィオーレはボンゴレよ同盟を結んでいるわけでもなんでもなくて、むしろボンゴレに目をつけられているようなファミリーなのだ。
その、ボスであるオレの別宅に、ボンゴレの人間が入り込んでるなんて、これをスパイだと思わないなら、じゃあ他になんだって言うのさ。
だから、オレは彼に隙は見せないしファミリーの内情は一切口にしてない。彼が帰った後は盗聴器その他が仕掛けられていないかきっちり調べさせてる。
ベッドルームに足を踏み入れる。
彼は熟睡しているようで、安定した、深い呼吸を繰り返している。実際のところ眠っているのかは知らないが。
ベッドに近付く。まだ目覚めない。顔を覗き込む。目覚めない。手をベットに付く、
「っ、誰!?」
本当に今の今まで眠っていたのだとしたら賞賛に値する速度で起き上がり、腕からするりとトンファーを出して隙なく身構え、たが、
「なんだ、あなたか」
こちらの姿を確認すると再びぼふっと音を立ててベッドに倒れこんだ。
すぐに呼吸が深くなる。力の抜けた手からトンファーが投げ出されている。
本当に眠いんだろうか、甘えて警戒心を薄れさせようとしているのだとしたらこの子は相当の演技派だ。
寝ているのにふよふよと跳ねている、自分とは正反対の黒い髪をなんとなく、撫でてみる。
無反応。つまらないので一房摘んで軽く引っ張ってみる。
さすがに不快なのか軽くむずかって顔を背ける。
「ねえ、恭ちゃん、」
彼の無意識下でのささやかな抵抗を無視、引っ張り続けながら呼びかけると、彼の目が細く開き、
「なに、」
不機嫌そうに言う。
「僕は眠いんだ、邪魔しないで、よ」
言いながら、再び眠りの世界へ突入しようとする彼を髪を強めに引くことで引き止める。
「なに、」
さっきと同じ台詞を、さっきよりも不機嫌そうに言った。
何とか少しだけ目を開いてオレの方を向いた。
機を逃さず、告げる。
「オレ、寝たいんだけどー?」
しかし。
「ふうん、」
それだけ言って再度目を閉じた。
雲雀恭弥。強敵だ。
「恭ちゃんー!オレのベッドなんだけどー」
1秒、2秒、3秒・・・無視だ。
「恭ちゃんってばー!?」
肩のあたりを叩きながら言うと、もうこの上なく不機嫌だというオーラを隠さずに、
「勝手に寝ればいいじゃない、僕の邪魔しないで」
言った。
それは一緒に寝ても良いよってこと?もしかしてソファで寝ろ?それは嫌だなあ、
ということで、一緒に寝る方を採用、入るよー、そういいながら彼の横に入る。
蹴りだされるか、とも思ったのだが、意外にも彼は少しだけ端に寄って、オレにスペースを作った。
うーん、やっぱり。
スパイっぽい、よなあ。
オレの喋ることを盗聴とかしてるのかもしれないし、いやそもそも自分で覚えて帰れば良いわけでもあるし。
まあ、機密になるようなことは、仕事に関することは話したりなんかしないけど。
一応、やっておくか。
身体チェック。今ならできるだろう。多分。
身体を寄せるときに、よいしょ、と、声が出て、なんだか落ち込む。オレ、まだ若いつもりなんだけどなあ。
気を取り直して寝ているらしい、本当に寝ているのかは知らないがとにかくその雲雀恭弥に手を這わせて不審物を持っていないか簡単にチェック。
襟の後ろとか、袖とか、ポケットとか、まあその他。
ん、とむずかってくすぐったいのだと言うようにもぞもぞと身をよじって逃げようとする。
これが怪しいんだよなあ、雲雀恭弥は。演技かホントか全く分からないから。
「やめてよ、」
眠そうな、か細い声。
本当に、
せめてどっちか教えてくれたら。
そうしたら、オレの葛藤もなくなって。
嫌いか好きかどっちかに分類できるのに。
そうすればこんな偽りじみた笑顔じゃなくって
(ホントに笑いかけてあげられるのに!)
お題は白蘭CP同盟さんよりお借りしました。