注・トゥリニセッテポリシーとやらを白蘭が始める少し前くらいの時系列です。ついでにすごくたくさんの捏造が含まれています。お気をつけを。
時々起こる、できれば毎日あって欲しいできごと。
部屋で寛げる貴重な時間。
ボスである自分にとって、それは本当に貴重なもので、たまにしかない。だから大事に使う。
ゆっくり入浴するだとか、愛読書を広げるとか。小さな幸せ。
が、それは窓が開く音によって唐突に壊される。
飛び込んできたのは、黒い青年。
自分とは正反対の色を持つ彼は、いつも乱暴な入室方法で侵入して来るが、今のところはまだ敵にはなっていない。今のところ。
姿を認め、なんとなく溜め息を付く。睨まれた。
鍵を閉めておけば入ってこれないかと思えばとんでもない、ガラスを割って侵入を果たすのだ。一度やられて懲りた。
彼はこちらを睨んだまま、頭の上に乗っかっていた黄色い鳥を握り潰しそうな手付きでむんず、と掴み、ちょっと外に居て、と言い聞かせるように言い、投げ飛ばすかのような勢いで外に放した。そして窓を閉める。
いつも連れてる割に愛情は無いのか、と言いたくなるが、彼にしたら側に置いているだけで破格の待遇なのだろう。
くる、と振り返った彼はやはり不機嫌そうにこちらを見つめていて。
面白くなって笑って見ていれば、ますます不機嫌そうな、鋭い表情に変わる。
このまま放っておいても面白いが、部屋を破壊されそうだ。
だから、手を広げて、おいで、と呼び掛ける。
ぴく、と眉をはねあげて、それからつかつかと僕の座るソファに近付いて来る。
僕の膝に乗っていた本を床に払い落として、そして、
子どもが親にしてもらうように、こちらの膝に乗ってきた。しかも腕を掴み、腹の前で絡まさせてくる。
強制的に抱っこさせられた訳だ。
まあ、この体勢は嫌いじゃない、むしろ好きだ。
だからこちらから抱き締め返すと、彼は居心地悪そうに身動ぎするけれど、
表情は結構幸せそうで。
何だかんだ言ってお互い抱っこが好きなのだ。
ふふ、と笑って彼の肩に頭を乗せる。
「久し振りだね、恭ちゃん。元気だった?」
「恭ちゃんって呼ぶな」
む、と口を歪めて言う彼。楽しい。
「ね、恭ちゃん。ご飯食べた?」
彼の発言を無視、再度呼びかける。
みぞおちに肘が叩き込まれる。容赦なしだ。痛い。
しかし振り返ってきて。
「君、ご飯食べてないの?」
なんて、声をかけてきて。
彼の手は彼の腹の前に回されている僕の手に絡まされていて。
ああ。いとおしいなあ。
「ねえ、どうなの」
再び問いかけてくる彼を、ちょっとだけ強く抱きしめる。
「もう食べたけど、恭ちゃんがまだなら一緒に食べに行こうかと思ってね」
そう言うと、彼は、なら、と言って、ぎゅ、と僕の手を握り締めて、
「ならさ、このままでいてよ」
ああ、もう。
この子はどれだけ僕を惑わせば気が済むのだろう。
彼はまだ知らないのだ。
僕らが近い将来敵対する運命であることを。
僕だけが知っていて。
彼に話すことは無くて。
彼は知らないままで。
だからこそ、こうやって無防備に甘えてきてくれるんだろう。
僕は、この幸せを失いたくないから。
なるたけ長く、こうしていたいから。
だから、決して彼に計画を話すことは無い。
彼が知るのは。
すでに事態が起きてからだ。
それまでは知らないでいて。
何も気づかないままでいて。
そして、僕に甘えてきてよ。
いつでもおいで。
いつだって抱きしめてあげるから。