崖の際、叩き付けられた絶望と空の青 /
                ここから落ちたら、もう助からない。ふと、見上げた空は、途方もなく、青かった。


 僕は、彼女と旅をしていました。
 行き先が一緒でしたのと、彼女が医療をかじっていたことから、ともに歩むことになった、ただそれだけの相手です。
 ですが、今日歩いて居たら。
 途中で、急に、ぷつりと。道が、途切れたのです。
 崖、でした。
 そこまでは森でした。木が両脇にあって、気がつきませんでした。
 僕はとっさに体重を後ろにかけ、何とか崖の上に体を保てたのですが、彼女は。
 対術には秀でていなかったらしい彼女は。そのまま。
 崖の下へ。落ちて。しまいました。
 僕はフォローすることも、できませんでした。
 落ちていく彼女を見ていることしか、できませんでした。
 僕だって、これくらいは分かる。

  ここから落ちたら、もう助からない。ふと、見上げた空は、途方もなく、青かった。

 その青さが逆に辛かった。


戯曲の中でだけの関係 /
                永遠に、戯曲の中に居られたら。それならいいのに。終わりはあっけなく、やってくる。


 戯曲の中の、この世界なら。貴女を愛していられるのに。
 貴女とともに居られるのに。
 僕は、幸せで、居られるのに。
 なのに。
 終わりはすぐに訪れる。
 拍手の音で、別れの時を告げられる。
 ああ。
 永遠に、戯曲の中に居られたら。
 それならいいのに。

  終わりはあっけなく、やってくる。


紅蓮の花びらに口付けを /
                貴女には、もう贈れませんから。だから。花びらへ、贈る。


 貴女に、似ている。
 あなたの遺体に添えられた、此の花は、貴女の、ようで。
 あまりにも美しくて。
 あまりにも儚くて。
 本当に、貴女そっくりだ。
 だから。口付けを贈る。
 貴女には、もう贈れませんから。
 だから。

  花びらへ、贈る。


幻影が紡ぐ現実の世界で /
                すべてが虚ろの中で、貴女だけがリアルだった。


 どんなに太陽が照っていても。
 どんなに物に溢れていても。
 どこか、幻を見ているようで。
 夢の中に居るかのようで。
 僕は透明なナニカだった。
 でも、貴女に会って。
 すべてが変わった。
 貴女は幻じゃなかった。
 夢なんかじゃなかった。
 貴女の前で僕は。
 透明では、なく、なった。

  すべてが虚ろの中で、貴女だけがリアルだった。


御用件をお伺い致しましょうか /


懺悔は要らない、これからを頂戴 /
                もう謝らなくていい。だから一緒に居させてください。


 謝らなくて、いいですから。
 僕を裏切った事なんて、どうでもいいですから。
 貴女に欺かれたことなんて、怒っていませんから。
 騙されていたにせよ僕は。
 今まで。貴女と居られて幸せでした。
 幸せでしたよ。
 ねえ。
 ねえ。聴いてください、僕の話を。

  もう謝らなくていい。だから一緒に居させてください。


自分よりも何よりも、大切なものがあるのです /
                だから、貴女は生きていて。貴女が生きていれば、それだけでいいから。


 貴女の事を、守らせて、ください。
 自分が死ぬかもしれないなんて、関係ない。
 僕は貴女に生きていてほしいんです。
 自分勝手だってことは、十分分かってます。
 僕が死んだら、貴女が悲しむかもしれないことも、分かってます。
 でも。僕は自分よりも何よりも貴女が大切なんです。
 貴女に、死んでほしく、ないんです。
 すいません、自分勝手で。
 それでも。貴女が僕より先に死ぬなんて、嫌だ。
 だから。

  だから、貴女は生きていて。貴女が生きていれば、それだけでいいから。

 お願いです神よ。僕の願いを、聞き届けて、ください。


ずるいよ、って言う、その声がずるいよ /
                その声に、どこまでもとらわれる。


 僕を咎める、貴女の声。
 それにさえ、僕は愛情を感じる。
 なんて、素敵な声なんでしょう。

  その声に、どこまでもとらわれる。

 ・・・ずるいよと言う、その声がずるいですよ。


絶望の端で貴方を呼んだら、 /
                そうしたら。そうしたら貴方は来てくれますか。


 貴女に会いたくて。なのに。会えなくて。
 貴女はいまどこにいるんです。
 どうして僕に行き先を告げてくれなかったんです。
 なんで、帰ってきてくれないんです。
 あなたが出かけて、もうずいぶんになるのに。
 なんで、帰ってこないんです・・・。
 会いたくて。会いたくて。
 僕は気が狂いそうだ。
 もし僕が絶望の端で貴女を呼んだら。
 そうしたら。

  そうしたら貴女は来てくれますか。


 祈るようにそう呟いた。


存命する感情、決定打の言葉 /
                告げて、抱きしめた。


 言わずにはいられないんです。
 僕の中にあふれる感情は。
 もう僕には抑えきれないんです。
 振られるのは分かってます。
 貴女には、僕じゃない想い人がいることも知ってます。
 貴女にとっては、僕の思いなんて。
 迷惑な、だけ、でしょう。
 だけど、せめて、思いを伝えさせてください。

 貴女が好きです。

  告げて、抱きしめた。


 ごめんなさいと。
 謝られて。
 ああ。やっぱり。振られちゃいました。
 大丈夫です。分かっていましたから。

 ねえ。突き飛ばしてください。
 僕からは、離れられ、ません、から。
 突き飛ばして。
 僕を貴女から離させてください。


濁流のような世界、君は何処? /
                探しても、探しても、貴女は居ない。


電信柱に区切られた世界 /
                此岸と彼岸をつなぐ電子。


毒を喰らわば貴方まで /
                たとえそれで命を落としてもかまわない。


倍返しにしてあげる、覚悟なさい /
                後悔するといい。僕よりももっと。


微量の愛を砂糖みたく溶かして /
                いっそ消えてしまえばいい


 この想いが叶わないのなら
 どうしても叶わないのなら
 そんな想い、

  いっそ消えてしまえばいい


 水に溶ける砂糖のように
 この想いを溶かして
 そして
 貴女を忘れよう
 だから、貴女も
 僕を忘れてくれます、か


舞踏会と砕けた仮面/
                君に砕かれてしまった。出会ったその瞬間に、あっさりと、砕かれて、しまった。


別離の瞬間、それでも君を見ていた /
                別れたくなんか、なかったのに。サヨナラなんか。言いたくなかったのに。


 どうしてだと思いますか
 ねえ
 なんでこうなっちゃったんでしょう
 貴女と居られる時間が
 こんなにも短いなんて
 思ってなかったですよ
 信じられないです
 貴女と分かれる日が来るなんて
 貴女に会えなくなるなんて
 本当は
 別れたくなんか、なかったのに。

  サヨナラなんか。言いたくなかったのに。


 幸せだったあのときに
 時が止まればよかったのに


僕、についての認識/
                僕って、何だと、思いますか。


 気になっていることがあるんです
 貴女に聞くのもどうかとは思うのですが
 僕 なんだと思いますか

  僕って なんだと思いますか


 ねえ。貴女にとって、僕ってどんな存在ですか



お題は群青三メートル手前さんよりお借りしました。